名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和42年(ワ)140号 判決 1978年7月27日
主文
一 別紙第二目録記載の土地につき、原告らが各六分の一宛の持分権を有することを確認する。
二 被告は原告らに対し金七七万三、五七五円宛を各支払え。
三 原告らのその余の主位的及び予備的各請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告、その余を原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(主位的請求)
1 被告は原告に対し、別紙第一目録(一)記載の山林につき別紙登記目録一記載の登記の、別紙第一目録(二)記載の土地につき別紙登記目録二記載の登記の、別紙第一目録(三)記載の土地に対する権利につき別紙登記目録三記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
2 被告は、原告らに対し、金一〇〇万円と、これに対する昭和四二年九月二三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
3 別紙第二目録記載の不動産につき、原告らが各自持分六分の一の権利を有することを確認する。
4 別紙第三目録記載の預金債権につき、原告らが各六分の一の権利を有することを確認する。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 第2項について仮執行宣言
(予備的請求)
1 別紙第三目録(一)、(二)記載の預金債権につき、原告深津と志子、同盛田光子、同紫田定子が各四二四分の一二〇の、同杉浦敏が四二四分の六四の権利をそれぞれ有することを確認する。
2 別紙第二目録記載の不動産につき、原告加藤弘子が一〇〇分の四七の、同杉浦敏が一〇〇分の二一の各持分権を有することを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(主位的請求につき)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(予備的請求につき)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
第二 当事者の主張
(主位的請求)
一 主位的請求の原因
1 原告ら及び被告は訴外亡杉浦秋太郎(以下単に秋太郎という)の子であるが、右秋太郎は昭和四二年六月二七日死亡した。
2
(一) 別紙第一目録(一)、(二)記載の土地の所有権及び同目録(三)記載の土地の所有権移転請求権は右秋太郎に属するものであつたが、原告ら及び被告は秋太郎の死亡に伴い、これらを相続により取得した。
(二) 別紙第一目録記載の各土地及び権利には、前記請求の趣旨の主位的請求1記載のとおり、秋太郎から被告に対する贈与を原因として、同目録(一)の土地には別紙登記目録一の、同第一目録(二)の土地には同登記目録二の、同第一目録(三)の権利には同登記目録三の各移転登記がなされている。
(三) しかし、右各登記は、被告が秋太郎より贈与をうけていないにも拘らずなしたものであり、右各登記は登記原因を欠き無効である。
3
(一) 被告は、秋太郎の承諾を得ることなく、昭和四一年一二月から昭和四二年六月までの間、岡崎信用金庫等に預金してあつた秋太郎名義の預金一〇〇万円以上を勝手に引き出し、自己の物にしてしまつた。
(二) 従つて秋太郎は、被告に対し、右金員につき不当利得の返還請求権を取得したが、原告らはこれを相続により取得した。
4
(一) 別紙第二目録記載の土地の所有権及び同第三目録記載の各預金債権は秋太郎に属するものであつたが、原告ら及び被告は前記相続により各六分の一宛の権利を取得した。
(二) しかるに、被告は秋太郎より贈与を受けていないにも拘らず右土地及び預金債権を含めて秋太郎の財産全部を同人から生前贈与を受けたと主張する。
5 よつて、原告らは被告に対し、別紙第一目録記載の各土地及び権利になされた別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続を、第3項記載の返還請求権につき内金一〇〇万円の支払と、これに対する訴状送達の翌日である昭和四二年九月二三日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、別紙第二目録記載の土地については原告らが各自六分の一宛の持分権を有することの確認を、同第三目録記載の各預金債権については原告らが各自六分の一宛の権利を有することの確認を、それぞれ求める。
二 主位的請求の原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)の事実中、別紙第一目録(一)、(二)記載の土地の所有権及び同目録(三)記載の土地の所有権移転請求権が秋太郎に属するものであつたことは認め、その余は否認する。
同2(二)の事実は認める。
3 同3の事実は否認する。
4 同4の事実中、別紙第二目録記載の土地の所有権及び同第三目録記載の各預金債権が秋太郎に属するものであつたことは認め、その余は否認する。
三 抗弁
被告は、原告主張の物件及び権利につき、次の各日時に亡秋太郎より贈与をうけた。
1 別紙第一目録(一)の土地につき昭和四二年二月一日、同(二)の土地及び同(三)の土地に対する所有権移転請求権につき同年三月二六日
2 同第二目録記載の土地につき同年四月三日
3 同第三目録(一)、(二)の預金債権につき同年五月三一日、同(三)の預金債権につき同年二月六日
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は全部否認する。亡秋太郎は次の諸事由により、他の子らをさしおいて被告に全財産を贈与する理由は全く存在せず、贈与に関する文書はいずれも真正に成立したものとはいえない。すなわち
1 被告は秋太郎の実子ではないこと。
2 秋太郎は被告を嫌つており、被告に財産をとられては困ると言つていたこと。
3 被告はかつて秋太郎の財産を持ち出したため同人から出入を禁じられていたこと。
4 秋太郎は小島はなと同居し、使用人として浅川鉦一郎を使つていたから、被告に扶養される必要はなかつたこと。
5 贈与日がそれぞれ異つて不自然であること。
6 秋太郎は老いて医療費等出費が予想され、全財産を他に贈与する状況になかつたこと。
7 被告は昭和三六年に秋太郎の財産を取得しようともくろんで扶養義務者指定等の調停申立をしたが、今回も昭和四二年に同様の申立をしていること。
五 再抗弁
1 仮に被告主張の各贈与が存在するとしても、亡秋太郎は明治二八年七月二〇日生れで、昭和四二年六月二七日死亡した当時七二歳一一ケ月の高令であるうえ、昭和三六年に交通事故に遭つて以来頭の働きが鈍くなり、昭和四一年末頃よりは完全に弁識能力を失うに至つていたのであり、昭和四二年二月一日から同年五月三一日の間になされたとする被告主張の各贈与はいずれも亡秋太郎が意思能力を欠いた状態でなされたもので無効である。
2 更に、別紙第二目録記載の土地については、仮に被告主張の贈与が存在し、かつ有効であるとしても、同贈与は書面によらない贈与であり、原告らは右贈与の取消権を相続によつて取得したから、昭和五〇年一〇月二九日の本件口頭弁論期日において取消の意思表示をした。
六 再抗弁に対する認否
1 再抗弁1の事実中、各贈与をなすにつき亡秋太郎が意思能力を欠いていたとの点は否認する。
2 同2の事実中、同贈与が書面によらない贈与である点は否認する。甲第九号証の内容証明郵便がその書面である。
(予備的請求)
一 予備的請求の原因
1 仮に被告主張の各贈与が有効であるとしても、右贈与は次のように原告らの遺留分を侵害するから原告は昭和四四年四月一九日付書面で被告に対し遺留分減殺の意思表示をし、右書面はその頃被告に到達した。
2
(一) 原告らの遺留分の率は各自一二分の一である。
(二) 別紙第一ないし第三目録記載の各土地、権利及び債権の贈与日は前記主位的請求についての抗弁欄記載のとおりでありいずれも亡秋太郎が死亡した昭和四二年六月二七日前一年間内であるから、これらは遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、他には相続財産及び負債は見あたらない。右各財産の時価は次のとおりである。
第一目録(一)山林 金九八万八、〇〇〇円
(二)雑種地 金三〇五万九、〇〇〇円
(三)畑 金三二六万六、〇〇〇円
第二目録 宅地 金二五三万四、〇〇〇円
第三目録一無記名定期預金 金一八一万七、八六二円(元利合計)
二同右 金二四二万三、八一六円(同右)
三普通預金 金二六万八、二一八円(内四七、一〇一円は利息)
以上合計 金一、四三五万六、八九六円
(三) 従つて原告らの遺留分の額は、それぞれ金一二〇万円弱であり、原告らが相続によつて得た財産はないから、原告らはいずれも右金額の範囲で遺留分減殺請求権を取得した。
3
(一) 原告深津と志子、同盛田光子、同紫田定子は第三目録一、二の預金債権の贈与につき、各自金一二〇万円の範囲で、原告杉浦敏は右贈与につき金六四万円の範囲でそれぞれ減殺請求をする。
(二) 原告杉浦敏は、第二目録記載の土地の贈与につき、右残額金五五万円の範囲で、原告加藤弘子は右贈与につき金一二〇万円の範囲でそれぞれ減殺請求する。しかして右各金額の右土地の時価に対する割合は約二一パーセントと四七パーセントである。
4 従つて、別紙第三目録一、二の預金債権につき、原告深津と志子、同盛田光子、同紫田定子は各四二四分の一二〇の、原告杉浦敏は四二四分の六四の各権利を有し、別紙第二目録記載の土地につき、原告加藤弘子は一〇〇分の四七の、原告杉浦敏は一〇〇分の二一の各持分権を有することになる。
5 よつて、別紙第三目録(一)、(二)の預金債権につき原告深津と志子、同紫田定子、同盛田光子が各四二四分の一二〇、原告杉浦敏が四二四分の六四の権利を有することの確認、及び別紙第二目録記載の不動産につき、原告加藤弘子が一〇〇分の四七、原告杉浦敏が一〇〇分の二一の各持分権を有することの確認を求める。
二 予備的請求の原因に対する認否
各財産の時価は不知。遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時の取引価額をその評価額とすべきであり、又原告らが生計の資本として受けた財産も計上すべきである。
三 抗弁
1 原告らの遺留分減殺請求権は、相続の開始及び減殺すべき贈与を知つた日から一年間の経過により消滅時効が完成しており、原告らの減殺請求の主張は右期間後になされたものであるから被告は本訴において右時効を援用する。
2 仮に右時効の抗弁に理由がない場合には、被告は価額による弁償を求める。
四 抗弁に対する認否
抗弁1の消滅時効が完成した事実は否認する。遺留分減殺請求権の消滅時効が進行するには単に贈与があつたことを知つたのみでは足らず、その贈与が遺留分を侵害して減殺しうべきものであることを知る必要があるが、本件では原告らは贈与の不存在を確信して本訴を提起しているのであり、このような場合時効は進行せず、その起算点は判決があつた時からとすべきであり、本件のような複雑な事案においてはなおさらである。又別紙第二、第三目録記載の財産については、その贈与があつたこと自体、昭和四三年四月二二日に至つて知つたものであり、原告らはそれから一年以内の昭和四四年四月一九日付書面で減殺の意思表示をしている。
第三 証拠(省略)
(第一ないし第三目録及び登記目録は省略)